選ぶなら夜明け前にして。

目の前ではおいしそうにラーメンをすする安藤。

あぁもう…お腹すいた。

油断したら、お腹がなりそうだ。


そんな私を察したのか、安藤が私にレンゲを差し出す。


「見ててなんか申し訳なくなるから、スープひとくちなら許す」

「え、いいの?やった」

スープひとくちって、どんだけケチなの。そもそも私の奢りなのに。

安藤からレンゲを受け取って、スープをすくう。

口に運ぼうとした時、安藤がレンゲを持つ手を掴んで止めた。

「は?ちょっと何なの?」

「二宮さ…」

「え?」

「間接キスだって、気にしねぇの?」

「…は?」

そういやそうだ。安藤が飲んでたレンゲで私は今スープを飲もうとした。

「別に気にしないけど」

「……まじで?」

「安藤と間接キスしたところでドキドキも何もしないから。笑わせないでよ」

「いや、俺が気にするから」

「じゃあなんで、レンゲ渡したんだよ」

顔を真っ赤にして安藤が言う。

「冗談だろ!気づけよそんぐらいアホ」

「冗談かよアホ!こっちはお腹すいてんの!食べるならさっさと食べて帰ろうよ
!」


私は投げ捨てるように言って、安藤にレンゲを返す。



その後に安藤が「気づけよアホ」と呟いたのを私は知らない。