「…」

「ね、どう?俺と付き合ってよ」

告白というものはこんな簡単に、あっさりと言えるものなのか。

ナンパ男って恐ろしい。

「やだよ」

今まで私の髪を触って撫でていた手を引っ込めて、今度はクシャクシャと自分の髪をかく。

「ま、初めてしゃべってすぐに付き合うのはさすがに無理かあ」

いや、そう分かってるんなら最初から言わないでよ。

そう思ったけど口には出さなかった。

蓮は前かがみになって、私を見つめる。
その距離約10センチ。


「じゃ、今日から友達ね」

「蓮なんかと友達になりたくないんだけど」

「そんなこと言うなよ〜。とりあえず、友達になったんだから、暇な時はいつでも呼べよ?」


じゃ、店出よう。と言って席を立ち上がる。私もそれについて行った。



苦くて全部飲めなかったコーヒーは、結局残してしまった。



店をでると、空はもう暗くなっていて、夜の合図を告げる。

月が丘は夜の方が栄えていて、クラブやキャバクラやホストクラブの看板が光り出す。勧誘の人がさっきよりも増えていた。

私は蓮の後について歩く。

「煙草くせぇ。俺煙草の匂いほんと無理」

「蓮って煙草吸わないの?」

「吸わねぇ。あんなもん吸いたくねぇ」

「なんか意外」

「そう?まぁよく言われるけど」

そんなどーでもいい話がやけに心地いい。


月が丘の街は煙草を吸う若者が多くて、喫煙所がやけに多い。
にも関わらず、道のそこらへんに吸い終わった残骸が落ちている。私たちはそれを綺麗にしようとはしない。

大きなビルのスクリーンに映るCMは、今話題のアーティストの宣伝がされているが、街の人たちは見向きもしない。

目の前にいる男、女に夢中だ。

人を口説くことに命をかけているみたいだ。馬鹿らしい。


「柚希ちゃん?」

はっと我に帰ると蓮は私の遥か前方にいた。私は立ち止まってたんだ。

「どうしたの?」

「なんでもない」

私は急ぎ足で蓮の元へ行く。

高身長で長い脚を持つ蓮はスキニーがよく似合っていた。

「俺、いまから自分の店に戻るから」

「あ、分かった。私も帰るし。じゃーね。」

そう言って、駅に戻ろうとする

「いや、おい!待って待って!」

「え、なに?」

ガッと腕をつかまれて、そのまま蓮の胸の中に引き込まれる。
軽く抱きしめられている状態。蓮の胸の中で香水の匂いがふわっと漂う。


そして私の耳元で


「好きだよ。柚希ちゃん」




こんなに軽く好きだという奴は、たいがい自分のモテる術を知っている。