「…ユウ」


紙をじっと見ていた先輩。

名前を呼ばれたけれど、わたしは顔をあげなかった。


だって、こんなところで見てほしくはなかったし、

それに…恥ずかしい。



「…えっ!ちょ…先輩!?」

突然、腕を引っ張られ、先輩はスタスタ歩いて行く。


いつもなら先輩、そう呼んだら怒られるのに、そのことも触れずにどんどんひと気のないほうへ突き進んでいく。


そして突然止まったかと思うと、


「…っ!!」

わたしは先輩の腕の中にいた。



「ずるいなあ、ユウ」

頭の上から声が降って来る。


初めての状況にわたしの頭の中は真っ白だった。



「こんなことするなんてずるいよ。

なんだよ…

ありがとう、大好きだよって…」


よりによって声に出すなんて…

恥ずかしさのあまり、耳が熱くなる。


先輩の腕の力が少し弱くなり、コツンと額と額を合わせる。


心臓の鼓動が耳に響いていた。

それなのに。


なぜか先輩の声がはっきりと耳に届く。



「俺も同じ気持ち。

大好きだよ、ユウ」




先輩の唇とわたしの唇が静かに重なった。