「ごめん、帰るわ」
俺は立ち上がった。
「俊哉っ」
あかりが俺の腕を掴む。
「ごめん。
怒った?」
「どうして?
怒ることなんてなんもなかっただろ」
そう。
別に怒っているわけではない。
「じゃあ、どうして急に」
「いや、明日までの課題終わってないこと思い出して」
「ならうちでやって行けばいいじゃん」
あかりに掴まれた手首が熱かった。
「あかり」
俺は空いているもう片方の手で、あかりの頬に触れる。
そうして触れるだけのキスをする。
「何にも怒ってないから。
今日は帰るな」
あかりはまだ何か言いたげだった。
でも俺の手首を静かに離す。
短い廊下を歩いて、靴を履く。
「あかり?」
部屋にいたはずのあかりが俺を後ろから抱き締める。
「俊哉」
そう俺を呼ぶ声が震えていたような気がする。
「また連絡してくれる?」
「また会ってくれる?」
「ねえ、わたしのこと、好き?」
矢継ぎ早に繰り出されるあかりの質問。
俺はどれにも答えず、振り返り、抱き締める。
頭の中でもうひとりの自分が何かを言っている。
それには聞こえないふりをして、あかりを抱き締める腕に力を入れる。
「あかり。
本当に怒ってないよ。
また連絡するし、また会うよ」
俺は最低だ。
「本当に?」
「当たり前だろ。
俺たち、付き合ってるんだから」
あかりから離れる。
やっぱり、泣いてる。
溢れる涙を親指でそっと拭い、じゃあな、そう言ってドアを開けた。
最低だ。
最低だ。
俺は、最低だ。
エレベーターに乗り込み、ドアが閉まる。
「……くっそっ!!」
あかりの最後の質問に俺はあえて、答えなかった。
あえて、だ。
いや、正直に告白する。
『わたしのこと、好き?』
その質問に、
答えられなかったんだ。


