「んー、おいしい!」


わたしは単純だ。

トシへの怒りなんて牛丼という美味しいものを食べれば、どこかへ吹っ飛んでしまう。

だからトシ。

どうか牛丼に感謝しなさい。

そして、さっき『あんなところ』扱いしたことを心から謝罪しなさい。



「なに」


「別にー」


そんな思いを込めながらトシを見ると、

偶然にも目が合う。


少しだけ心拍数が上がったことを隠すために箸をすすめた。



「ねえ」


「ん」


「あかりちゃんは」


そう口にすると、トシの動きが止まった。



「なに」


「今のこの状況、知ってるの?」


「なんで?」


なんで、って…


「いや、自分の知らないところで彼氏が異性とご飯食べてるってケンカになりかねない話だよ?」


浮気だ、って言う人だってきっといる。

なのにトシはチラッと横目でわたしを見て、

そして再び牛丼を食べ始めた。


え?なんでノーリアクション?