その日の最後の講義を受けていた時だった。

頬杖をついて窓の外を見ながら右耳から入ってきた先生の声が左耳から抜けていくのを感じていた。

隣では友達がすーすーと小さな寝息をたてて気持ちよさそうに寝ている。

目の端に入っていた机の上のスマホの画面が突然明るくなった。


『トシ』

2年半ぶりに表示されるその名前。

メッセージを開きたい気持ちと開きたくない気持ちが葛藤している。


ああ。

気が重い。


『開く』というボタンの場所を避けてスマホの上で指を滑らせて遊んでみる。

その間も表示され続けているトシの名前。


じゃあまた連絡する、とは言ってたけどさ。

こんなに早く連絡してくる?

だったらなんでこの2年半いっさい連絡してこなかったの?

意味、分かんない。


「はあ…」

無意識に溜め息が出た。


「優子?」


「…あ。」


寝ていたはずの友達に突然話しかけられ、驚いた。

と、同時に画面の上で遊んでいた指が『開く』ボタンを押してしまう。



「ん?なんでもないよ?

ほら、まだ寝れるよ」

スマホをさりげなく手で覆い、そう促すと


「うん、おやすみぃ…」

と、友達はまた夢の中へと誘われていった。