『…そう。』


美帆の返事はそれだけだった。

驚きもしない。


「そのことも知ってたの?」


美帆は何も言わない。

きっと目の前にいたらばつの悪そうな顔をしていることだろう。



「そっか…

美帆はそのことも知ってたのか…」


知らなかったのはわたしだけ。

わたしだけ、何も知らなかったんだ。


『ユウ。

あたしはトシくんに何も言ってないよ。

ユウがその大学に入学したことも、』


美帆はそこで1度言葉を切った。


『…先輩と別れたことも。』


なんの間だったんだろう。


ねえ、美帆。

わたしはバカだからね、

だから、分からないよ。

ちゃんと言ってくれなきゃ、今の間にどんな意味が込められているのか、なんて分からない。



『ユウ。

これだけは忘れないでほしいの。』


「なに?」


『あたしはユウのこと、誰よりも応援してるよ。』


この後講義があるから、またね。

美帆はそう言って一方的に電話を切った。


わたしは座り込んだまま、膝に顔をうずめて

はあ、と大きなため息を1回だけ吐いて立ち上がった。


【キーンコーンカーンコーン】


頭の上でお昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。