「トシには…まだ言えてない」


昨日、美帆から報告の電話がかかってきたとき、美帆はわたしにお願いをした。


『トシくんにも勇気もらったし、ユウから伝えといて』

って。


でも、まだ、言えてないんだ。


「なんで?今朝も一緒に駅まで行ったんでしょ?」


「なんか、トシ寝坊したらしくて。

だから一緒に行ってなくてさ。」


「え、トシくんが寝坊?」


「うん、そうらしいよ。

トシには会ったとき伝えとくから、早く教室行こう!」


不思議がる美帆の腕を引いて教室へ向かう。


ごめんね、美帆。

わたしは今、ウソをついた。


トシは寝坊なんてしてない。

アイツ、なぜか朝に強いから。

わたしが寝坊をすることは何度もあったけど。

でもトシはこれまで1度だって寝坊なんてしたことがない。


今日、わたしはいつもより早く家を出た。

なぜなら、トシの顔を見たくなかった…いや、違う。

トシにどう接していいのか分からなかったから。


昨日、あんなふうにわかれて。

きっと顔を見ればトシは聞いてくる。


昨日のはなんだったんだ、って。


でも、わたしはその質問に答えられない。

だからお母さんに適当にウソをついていつもより早い時間に家を出た。