「じゃ、またな坂本」


分かってる。

不自然だってことは分かってる。


幼なじみのトシを振り返らず、その場を立ち去ろうとしていることが違和感でしかないことくらい。


でも、振り返れなかった。



「ユウ?」


名前を呼ばれ、はっと我に返る。

今、わたしナオくんの手を引っ張って歩いていた。

前なんか見ずに、足元ばかり見て。



「どうした?

なんかあった?」


わたしの両肩に手を置いて、ナオくんは顔を覗き込もうとする。

咄嗟に、ナオくんに抱きついた。


顔を見られたくなかったんだ。


「なんでもないよ」


ウソをついた。


「…そっか」

なんでもない、わけがないことなんてきっと気付かれてる。

それなのにナオくんはそれ以上何も言わず、わたしの頭をポンポンと優しく撫でる。


涙が、出た。


わたしは最低だ。


こんなにも優しい彼氏がいるのに。

それなのに、大嫌いで

だけど何も言わなくてもなんでも分かってしまう幼なじみにヤキモチを妬いた。


わたしは大好きな彼氏の胸の中で固く、固く、誓う。


今日のことは忘れよう。

何も、なかった。

美帆の好きな人、圭祐くんに会って。

口裂け女をやって、そこにトシが来た。


ただ、それだけ。


わたしが好きなのは、

今目の前にいる、ナオくんだけだ。




トシは、幼なじみ。

それ以上でも、それ以下でもない。

ただの、幼なじみ。