「おっ!久しぶりだな、坂本」


ナオくんはトシに気付き、片手を上げる。



ああ、もう。

なんで分かっちゃうんだろう。


「お久しぶりです、先輩」

そう言いながら笑顔を見せたトシだけど。


わたしには、わかる。

その笑顔が作り物だということが。



「ってかユウ、その顔なんだよー!」

ナオくんはわたしの顔を見て笑う。

しまった、マスク!


「やめてよー、恥ずかしいっ!!」

そう言いながら右手の中でくしゃくしゃに握られたマスクを広げ、大きな口を隠す。

そしてわたしはさりげなく、ナオくんのほうへ行く。

ねえ、トシ。

やめてよ。

背中に刺さるトシの視線が、痛いよ。



「今ちょうど、ユウのクラスのところ行こうと思ってたんだよ」


「そうなの?

じゃあ一緒に行こう」


「そうだな」


ナオくんがいつものようにわたしの手を握る。

そう。この手、この温もりだ。


わたしを大切にしてくれる、この手。

ナオくんよりも細い、なのに大きい、昔からよく知っている、あの手じゃない。


わたしが求めているのは、

トシの手なんかじゃない。