「すごい偶然だね」
ちゃっかり俺のTシャツの裾を掴んで、俺を見上げる吉村。
そう簡単に逃げさせてはくれないよな。
「そう、だな」
顔が引きつらないように気をつける。
「誰かと一緒なの?」
「吉村は?」
質問に質問で返す、なんてずるい技を使う。
「友達がね、ここの学校に通ってるんだけどね、今から舞台で劇やるんだって。
だから今はひとり」
なんてことだ。
これはますます逃げられない流れじゃないのか…?
「じゃあ、その友達の劇見に行ってやらないとだな」
「ううん、午前の部で見たからもういいんだ」
…わお。
どうする、俺。
「で、坂本くんは誰かと一緒なの?」
「俺は友達と…」
嘘をつくという後ろめたさから語尾が小さくなる。
別に吉村のことはキライなわけじゃない。
普通に容姿は可愛いと思うし、
性格だって今どきの女子高生、って感じ。
でも、何が問題かって、
それは俺のことを好きだって気持ちを全然隠す気がない、ってところなんだよな…


