「うん、でもね、トシ」
急にトーンを落とす圭祐くん。
それに驚いて、圭祐くんの顔を見ると、
ものすごく真っ直ぐな目で俺を見ていた。
「待つってものすごく苦しい選択だよ。
いつか自分のもとに来るって保証がないからね。
だから苦しくて、辛くて、どうしようもなくなったら、いつでも言って。
話くらい、聞いてあげることはできるから。
俺も、美帆ちゃんもトシのこと、応援してるよ」
そう言って圭祐くんは少し目尻を下げて笑った。
不覚にも、泣きそうになる。
本当は毎日辛くて苦しい。
それでも待つって選択肢をとったのは自分だから、
と自分自身を奮い立たせる日々で。
だから、そんなふうに言われると、簡単にぐらついてしまう。
「…そのときは、よろしくお願いします」
絞り出すように、そう一言だけ発した。
そうすると圭祐くんは満足そうに頷く。
「なーんて、カッコつけてるけど、まずは自分がちゃんとしないとな」
立ち上がってひとり頷いている圭祐くん。
「俺は、今日勝負するよ。
美帆ちゃんに、告白する。」
良かったね、美帆ちゃん。
美帆ちゃんの思いはちゃんと、報われるよ。
「じゃ、俺は1回帰るね。
また」
「また」
圭祐くんは俺に背中を向け、人ごみの中へ紛れていった。


