もし人間だったらーー時々そんな意味のないことを思ったりすることがある。


ふと少年はあることに気づく。微かな気配がした。それは人間では気づけない、幻想種ならわかるもの。


「……これは妖精?こんなとこに来るなんて馬鹿だろ、くそっ」


ーー妖精が冬の森にいるなんて、飛んで火に入る夏の虫だろどう考えても。


相手のいる位置はわかる。あとはこの空から降るものを止めなければ……


「“今”だけ降るな」


少年の言霊で、ピタリと白銀が止んだ。



森の中をひたすら疾走しーーやっと、少女を見つけた。今にも泣きだしそうな翡翠色の瞳からぼろっと涙が零れる。


「……やっと、会えましたぁ」



少年は怪訝そうに少女を見る。自分はこの少女にまったく身に覚えがない。そんなことなど、お構いなしに続けて言った。


「ずっと探してたんですあなたのこと。飛べない竜は、あなたのことですよね?」



飛べない竜。


落ちこぼれ、出来損ない、異端、一族の恥さらし。


そう、自分は貴重種でも誰からも必要とされてない、飛べない竜だ。