「あざみさん、怪我はない?」


「はい。大丈夫です。冬夜さん、蒼蓮様、助けてくれてありがとうございます。」


激しい戦闘の後だが服装に乱れもなく、傷もないあざみを見て安堵した二人。
だが彼女の背後にいる人物を見て冬夜が眉間にシワを刻んだ。


「まさか近衛を助けるために?」


脇腹を抑えて苦痛に顔を濁らせている刀李。覚束無い足取りであざみの背後から出て、あざみの少し後ろには立つ。


「ありがとう、遷宮。お二人も、ありがとうございます。」


ぶっきらぼうな口調だが、嘘偽りは含まれていないようだ。
それにあざみの隣ではなく少し後ろ立つと言うことは控えることを示しており、どうやら恩を感じているようだ。
微笑んだ冬夜。蒼蓮は歩きながらあざみの頭を撫でて刀李と対峙する。


「見せてみろ。」


ベルトの金具に拵えの一部品を掛けて刀を仕舞うと、傷を指差す。
おずおずと赤く染まったシャツを目繰り上げると、刺し傷が一つ。
失血の程度と傷の横幅から察するにマネキンの腕に刺されたのだろう。
本当は立っているのも辛いはずなのに、気力だけでどうにかしているような刀李。
その意思の強さを好ましく思った蒼蓮は制服のジャケットの内側から一枚の呪符を取り出し傷に張る。
呻く刀李に一瞬視線を向けるが、傷に視線を戻し人差し指に中指を添えて札に当てた。


「第七治癒術、再生呪符。」


柔らかな桃色の光が半円を描いて呪符から生まれ、傷の最奥から順に再生していく。
日本魔術は呪符を使用して術を編む魔術だ。その為、大型魔術であろうと呪符一枚でどうにかできる。西洋魔術の、契約と使役よりも簡単だが術の難易度によって呪符を作る期間が変わる。
この再生呪符は治癒術に使用される呪符の中では高位の呪符で、作るに必要とする期間はさしずめ2ヶ月以上だ。
それを知ってか知りまいか、驚愕の表情の刀李。
傷は数十秒で完治し、呪符が体に同化する頃には痛みも消えていた。


「式、様。」


「おら、治ったぞ。」


傷口を叩いて爽やかな笑顔でそう言った蒼蓮。
例え自分に生意気な態度をとろうと格下には余裕をもち接することを教育された蒼蓮にとっては当たり前の行動であったが、刀李にはそうではなかったらしい。