「あざみさんに手を出すな。」


突如響いた静かな低音、穏やかな声色。見るものを魅了する蠱惑の緑色の瞳で巨大な双頭のマネキンを捉えた青年はただ手を伸ばした。
白い腕があざみの柔らかな肌を貫くその前に、額に触れた手。
その手の甲に赤い刻印が浮かび、光を放つと共に、崩壊が始まった。
さらりさらりと砂と化し、風に吹かれて宙に舞う。


「こっちにも1体。大人気だな。」


月光を返す銀色の刀身が鞘から抜かれ、あざみと刀李の死角である南東の方角に立つ三腕の巨大なマネキンに向けられる。


「第三火術、烈火呪符。」


刀身に添えられた長方形の和紙。朱墨で文字の書かれた呪符だ。
刀身に溶け込むように消えて、鋒から鎬造りの刃を下るように炎が生まれる。

真っ二つであった。
切られて燃えたマネキンはものの数秒で灰になり、刃は黒漆塗りの鞘に納められる。


地面に降り立った二人の青年。それは蒼蓮と冬夜であった。
汗一つ書かず涼やかな顔の二人、小型を鞘に仕舞ったあざみは拳をぶつけて健闘を讃え合う二人を見る。

圧倒的な実力の差。才能の差、それを実感し憧れを湛えるあざみの紫の瞳。
目の前にいるこの二人の青年こそが、これからの日本魔術社会を率いる王なの
だ。