エレベーターで二人と別れ部屋に戻るとそこには、やはり孤独な空間が広がっているのだ。
だが二人と過ごしたお陰で中々に気分の良いあざみはベランダに出た。
グラウンドも校舎も、その奥の森すら眼下に広がる。一般的な8階建マンションと同じような高さなのだから当然と言えば当然だが、遠くに広がる街を見ていると己のいる場所の高さを実感する。
外界から隔離されたこの学園で過ごすこと計10年。初等部は自宅通学のため料理入ったのは4年前だが、今では実家である遷宮本家よりも居心地の良い空間である。
孤独なのは仕方がない。ホルモンバランスか何かが崩れて精神状態が不安定なのだろう。


『君は随分と悲しそうな顔をするんだな。』


記憶の穴からまた過去が出てきた。悲しくなんかないのに、言葉にされると心に刺さる。
いっそのこと深く追いかけて、その顔を見てやろう。そう思ったあざみは、目を閉じて記憶に耳を傾ける。
手を置いた手すりは冷たく、夜風が髪を揺らす、心地の良い夜だ。


『耳を澄ませば聞こえてくるだろう。目だけでは感じられないものもあるんだ。』


今日は記憶がよく喋る。言われた通りに耳を澄ませば確かに、微かに何かが聴こえる。