目隠ししていた女性のものだと思われる細い手が離されて、一瞬にして変わった景色にあざみは警戒心を露骨なまでに高めて振り向く。


「手荒な真似をしてすまないな。私は、四織(シシキ)が一つ遠儀(エンギ)家の頭主燕(ツバメ)だ。」


無造作に伸ばされた肩ほどまでの黒髪に、黒い瞳。蒼蓮の中性的な美貌を女性寄りとするなら、この人は男性、というか美青年寄りの美貌。
着流しを着た、研ぎ澄まされた刀の鋒のような雰囲気を纏う女性だ。


「遠儀、燕さん。」


日本魔術社会にはそれこそ三時間ほど語れそうな階級と名家があるが、その中でも高位な名家を纏めて式御三家四織と呼ぶ。最も格式高い家が式家、その次に御三家の京極、そして遷宮、一ノ瀬ときて四織だ。

四織は戦闘魔術に特化する名家四家の総称であり、様々な家の世間には公開しがたい仕事、言わば暗殺や闇討ちと言った薄暗い仕事を大金と引き換えにこなす専門家集団。

遠儀と言えば四織を束ねる家だ。背中を冷たい汗を伝うのを感じたあざみは、特殊礼装である瞳に魔力を回し臨戦態勢に入る。


「そんなに警戒しないでくれ。君を殺したりはしないさ。」


鬱陶しそうに手をひらひらと揺らして、戦う意思が無いことを示す。
遷宮の娘である私に随分と適当な態度を取るものだ。とあざみは思ったが、臨戦態勢は解かない。


「まったく、君は疑り深いな。」