「おい!うらら!注射の時間だぞ!なにぼーっとしてんだ。だから、遥先生に怒られるんだぞ!」

「えっ!!優人くん!もうそんな時間?ごめんすぐ準備していくね。」


この子は私の受け持ちの患者さんの男の子。生まれつき心臓が弱くて入退院を繰り返す、この病院の常連さんだ。


そしてなぜか私は優人くんにとびきり好かれている。まぁ、診察に問題はないから別にいいんだけど。


「うらら!うららには彼氏とかいるのか?どーせいないんだろ?俺がお嫁さんにしてやるからな!嬉しいだろ?」


「優人くんプロポーズは本当に好きな子にしないとだめだよ〜はい、じゃあチクッとするよ〜」


一瞬だけ優人くんの顔が歪む。注射を怖がらないのも痛がらないのも全部強がりだとわかる。本当は怖くて痛くて泣きたいのに、泣かない。

「俺が結婚してやるって言ってんのに断るなんてうららにそんな権利はないんだぞ!
それに俺は強いからな!うららを守ってやれるぞ!」


少し前まで、優人くんに注射を打つのは凄く大変だった。大声を上げて泣く優人くんに釣られ周りの子達も泣くわ叫ぶわで阿鼻叫喚の地獄絵図。

それがおさまったのは遥のこの言葉。


「あんた、うららのこと好きなんでしょ?お嫁さんにするんでしょ?お嫁さんにするってことはねぇ、一生その人を守るってことよ。注射ごときで泣き叫ぶ弱っちいやつじゃうららは守れないわね。」



それ以来、優人くんは注射で泣かなくなり、遥のことを遥先生と呼ぶようになった。