小学校2年生、転校してきてから桜舞う教室の中で出会ったのは柚樹だった。
「ねぇ、楓!一緒にバレーしよ!」
そう言って毎度毎度の休み時間に体育館に走った。

私は昔からバレーを習っていたけれど、球技はあまりとくいではなかったので柚樹に指導してもらっていた。
「トスよりサーブの方が得意?」
そんな言葉、今でも覚えてる。

_時が経つのはとても早い、私はある病にかかってしまった。

「…は?」
「恋だよ恋!楓は柚樹君に恋してるってワケ!」
バシバシと机を叩く尚美は気分屋でとてつもなく明るくムードメーカー的存在である。
「ちょっ、しーっ、聞こえちゃう、ってか恋って決めないでよ…!そんな恥ずかしいじゃん…。」
私は中学生にもなって恋があまりピンとくるほど乙女系(?)ではなかった。
いっつも小さい時からバレーをしてもらっていた柚樹に恋、だなんて。
確かにアイツはモテる、優しいし人気だし、三役だし。頭いいし、なんでもできる。中学生になってから尚美も一回告白したらしいけれど、『今は悲しい思いをさせたくはないんだ』って言われたらしい。なんて酷いやつ、今度あったら何か言ってやる!!
「でもさぁー、柚樹君バレー推薦行くんだよねぇー。私は吹奏楽部だからそんなの全然なくてー。いいよね、楓は~。」
大阪のオバチャンみたいな喋り方になるのもやめてほしい。こっちもアレだから。
「そもそも、アイツと私は関係ないから!しかも何で…。」
熱く語ろうとした瞬間後ろから大きな骨ばった細い手が延びてきた。
「おーい、何してんだよ。」
黒髪の少しモワッとした髪型の男子。
尚美がクイクイと袖を引っ張ってくるので、きっと柚樹に違いない。
「なーによ。柚樹。」
そう愛想無く言ってみる。
「小さい頃はあんなに可愛かったのにな、今ではこんなだからな。」
そう言って頭クシャクシャして帰っていった。…何アイツ、超理不尽!
やっぱり嫌いだあんなヤツ!

___中学二年夏、なんか呼ばれた。

「ちょっと聞いて欲しいことがあるんだけど、幼馴染みのお前にしか言えないことだから。」
なーによ。っていつも通り、笑って聞きたかった。
でも、悲しそうな目でこっちを見てくるから思わず、
「早く言ってよ。」
冷たく言ってしまった。
暫くしてから柚樹は喋りだした。
「俺さ、実は…。 記憶喪失になりかけてるらしいんだって。なんでかな。ハハッ。」
なんで笑えるのかがサッパリわかんない。自分のこと大切にしろ、…なんて言えない。
「え…手術するの」
勇気が無い私にはそれを言うのがやっとだった。本当は泣きたい。けど…。
「うん、でも。それをしたら病気は治るかも知れないんだけど、やっぱり記憶は…ってなっちゃうんだろうな。」
内容が理解出来なくなった私は堪えて、堪えて…堪えた。
『夏休みに手術するんだね、次会えるのは三年生かな?…え、ちがう?、高校?わかった!入試頑張るね~!』
という話をして終わった、何もないと良いけど。私のベストライバル、柚樹に。