「口ではなんだって言える」




地を這うような飛鳥の低い声。



鼻の奥がツンッとして、泣きそうになった。



なん……っで、


何で、信じてくれないの……っ?




どうしてそんなこと言うの?



どうして………わかってくれないの?



わかろうとさえ、してくれないなんて………そんなの、あんまりだよ。




「なあ、陽菜?」



突き放すような、飛鳥の声に、じわりと視界が歪む。

胸の奥が軋むのは、気のせいなんかじゃない。


そんなもので誤魔化せられる痛みじゃない。



「俺は、お前の彼氏じゃないわけ?」



「っ……!!」




ズキン…っ。



なん……でっ。



胸の痛みと共に、飛鳥の声が、私の中で反芻して。

なん、っで…飛鳥がそれを言うの……っ?




〝お前の彼氏は俺じゃないわけ?〟



その言葉が、私の目の前を真っ暗にさせた。




飛鳥だよ……。



飛鳥に決まってんじゃん。



それ以外誰がいるって言うの。




ねえ、飛鳥……?



飛鳥がそんなこと聞いてくるんだったら、私だって飛鳥に聞きたいよ。



「……こそ……」



「あ?」



「――そっちこそ……っ、他の女の子といたくせに……っ 」



「…っ、それは……!」



「それは? なによっ、何でそんなこと言われなきゃならないの? 私だけが悪いわけ? 私にはいつだって“お前は後で”だなんて言葉で後回しにするくせに……っ」




ボロボロと、堪えてた言葉が次々と出てくる。


塞き止めてた不満が爆発したみたいに、赤裸々な私の想いが口からこぼれる。




「それを言われる度に、私がなんとも思ってないとでも思った……っ?怒るだけだとでもおもった!?……っそんなこと……そんなこと、あるわけないじゃん……っ!!」




ほんとは、言われる度に胸が軋んで。



私が彼女なのに!って。


私の飛鳥に触らないでよっ!って。



そう言いたかった。



だけど、そんなこと言える勇気、私にはなくて。



ずっと、たえてた。



こんな風に、わめき散らかしたくなかったから。


言い合いになんてなりたくなかったから。



嫉妬深くてわがままな自分を知られたくなかったから。


必死に耐えて、傷ついてないそぶりしてたんだよ?


強気な言葉で、態度でそれらを隠して。



「辛、かった………」



あふれ出てきた言葉はもう、歯止めなんてきかない。