「彼女ですね、もう、この世にいないんですよ。もう、3年前のことになるんですがね。急な病気で亡くなったんです」

下を向きながら話す朝日奈君のメガネを伝い涙がテーブルに落ちたのが見えた。
私はかける言葉が見つからず、なにも言うことができなかった。

「誰にでも明るく微笑みかけて楽しく話をする元気なコでした。美人てわけじゃなかったけど、僕はそんな彼女の笑顔が大好きで。そんな彼女の笑顔は、毎日見てても飽きないというか、むしろもっと見たい、まだ足りないって思うくらい好きだったんです。彼女は僕なんかのドコを好きになってくれたのか、今となっちゃ、もう、きくことも出来ないんですがね。とにかく幸せだったんです」

朝日奈君は不器用な笑みを無理矢理浮かべていた。

「誰でも罹るような病気、ホント流行性のインフルエンザだったんですがね、どういうわけか、重篤化してしまって。僕が彼女の家に行った時は彼女もう意識がなくて、慌てて救急車を呼んだんですが、そのまま目を覚まさなかったんです。どうして、亜季が、あんないいコが、どうして。彼女、僕に風邪をうつしちゃいけないからって、無理して大丈夫って言ってて、僕も彼女の言葉に甘えてしまってて。なんで、もっと早く彼女の家に行かなかったんだって、僕が風邪なんかを怖がらなければって、今でも後悔してしまうんです。いや、僕がどれだけ後悔しても、どれだけ彼女に謝っても、彼女は帰ってこないんですがね」

そう自虐的に言ったまま、朝日奈君は俯き黙り込んでしまった。
私も何一言しゃべることができなかった。
しばらくの間、沈黙が支配を続けた。

「それ以来」

不意に彼は話を再開した。

「それ以来、1日たりとも彼女を忘れることが出来ないんです。いや、むしろ忘れたくないのかもしれませんね。すみません、こんな話聞きたくなかったですよね、七尾さん」