「そういえば、ごめんね、朝日奈君。香奈ったら変なこと訊いてたでしょ。あのコね、悪気は無いと思うんだけど、昔っから人の恋愛話聞きたがりでね。思い出したくないこと思い出しちゃったでしょ?」

香奈が朝日奈君にしつこく昔の彼女のことを訊いてたことを、私は詫びた。

「いゃあ、別に気にしてませんよ」

彼は曖昧に微笑むように言った。

「ただ」

そのまま朝日奈君は黙り込んでしまった。

「どうしたの?朝日奈君」

「すみません、ただ少し思い出しちゃったんで。酒のせいかな?」

そのまま彼は苦笑いのような顔をして、メガネの奥の目を少ししばたたせて、しばらく考え込んでいた。

「昔の彼女のこと?」

「はい」

彼の目は虚ろに宙を見つめていた。

「ん?どうしたの?」

「あんまり、人に話す話じゃないんだけど、たまに、たまにですけど、どうしようもなく苦しくなっちゃって」

そう言って彼はまた黙り込んでしまった。
今度はハッキリとわかった。
朝日奈君は目に涙をうっすら浮かべていた。

「ど、どうしたの、朝日奈君」

「七尾さん、愚痴みたに聞こえるかもしれないけど、聞いてもらえませんか」

彼は泣き笑いのような表情で私に視線を戻した。

「話すことで朝日奈君が楽になるなら、お話し付き合うわよ」

「へへっ、すみません。変に思い出しちゃったんで、誰かに話さないと逆にツラくなっちゃって。ほんとすみません」

そう言って朝日奈君は無理に笑顔を作って、昔の恋人のことを語り始めた。