「だから、香奈が、武田君のこと」

「ふへっ?」

「香奈が武田君のこと好きになっちゃったみたいなの」

「ふへっ?な、中野さんが?ボクのこと?」

な、なんだこの展開は。
あまりに不意打ちというか、残酷というか、目の前でそんな事を言うあなたはボクの気持ちを、知るはずもないか。

「だ、だから香奈のことわかってあげてくれないかな?」

「へっ?」

このヌケサクは「へっ?」とか「ふへっ?」とかしかしゃべれないのか?
バカたれ。
少し情けない自分自身に自己嫌悪する。

「多分、香奈のことだから、不器用で上手く武田君に自分の気持ち表現できないというか、伝えられなそうだから」

自己嫌悪の次はに辿り着いた感情は、なんか、すんげぇ腹がたつというものであった。

もし、中野さんから里沙さんに頼んでこのこと伝えたとしたら、ボクは最も残酷なフラれ方をしたことになる。

「里沙さん、このことって、中野さんから頼まれて?」

里沙さんは首を横に振った。

「私が、勝手にそう思ったんで。香奈はこのこと知らない」

「里沙さん、そういうことってさ、たとえ親友でも勝手にアナタのしゃべることじゃないと思うよ」

少々語気が強くなっていた。
そして潤んだ彼女の瞳をボクはまっすぐ見据えた。
そして、

「それに、ボクはアナタのことが好きなんですよ、里沙さん」

と告げた。

結局ボクらの間に気まずい空気が流れてしまい、そのまま帰路についてしまった。

とりあえず前期試験も終わっていることだし、逃げるみたいでイヤだけど、頭冷やすためにツーリングがてら清里の実家に帰ろうかななんて考えていた。
タバコをくわえながら家でウダウダ悩んでいると携帯がなった。

里沙さんからだ。
なんだろ?今日のことかなぁ?

とりあえず、普段通りに電話に出る。

『武田君?香奈が入院したの、今から来れる?手術が必要で同意書や入院手続きがとか色々』

里沙さんは動転しているようだった。
かくいうボクも少し慌てていたが、

「桜岡病院だね?バイクですぐ向かうから待ってて」

と告げ電話を切った。
盲腸ということなんで命に別状はないだろうが、ボクは急いで病院に向かった。
桜岡病院の夜間入り口に里沙さんはいた。

「どうしよう。ご両親に連絡とれないわ。香奈のご両親て海外にいるから」

慌てる里沙さんにボクは諭すように言った。

「里沙さん、少し落ち着いて。ここ、病院だから、後はお医者さんに任せておけば大丈夫だから。で、中野さんて盲腸なんでしょ?じゃ緊急で手術始まっちゃったのかな?」

里沙さんは謝るような目でボクを見た。

「さっき始まった。あと、入院手続きなんかが必要みたいだから」

「着替えとかも必要だから今のうちにボクらで買い行こうか?」

「そうね、そうしようか。武田君ありがとう。私慌てちゃって」

「自分を責めることはないよ。今、中野さんのためにボクらができることやっておこうよ」

「そうだね、ありがとう、武田君」

彼女はすがるような眼差しでボクを見た。