「ありがとう、イツキ………」

今、私が口に出せる言葉はそれが精一杯だった。
彼は私の目から溢れ出る涙を、そっと拭いとってくれた。
涙で滲んでしまって、大好きなイツキの顔がしっかり見れないよ。

「香奈さん」

彼は優しく私の名前を呼んだ。

「イツキ、本当に、ありがとう………ありがとう」

これ以上、私はなにもしゃべる事はできなかった。

「香奈さん、ずいぶん前だけど、約束したよね?明日のボクは明日の香奈さんと、未来のボクは未来の香奈さんと、ずっと一緒だって」

「ちゃんと、覚えていて、くれたんだ、ね」

私はこみ上げるもので、切れ切れとしか言葉が出せなかった。
でもイツキは、そんな私を温かい眼差しで優しく見つめてくれた。

「忘れるわけないじゃないですか。だって、香奈さん、『約束よ』って言ってキスしてくれたじゃないですか。そんな大事な約束を、忘れたり、破ったりなんてできませんよ」

私はたまらなくなって、彼の胸に飛びついた。
その瞬間、私たちの乗ったボートが大きく揺れた。
イツキは慌ててボートのバランスをとって揺れを治めた。

「危ないなぁ、香奈さん、ふたりしてこんなとこで落水したらシャレにならないって」

そう言って、彼は私の頭をそっと優しく撫でてくれた。

「まあ、夏だから大丈夫かぁ。ねぇ、香奈さん」

そう私に呼びかけてしばらく、彼は沈黙した。
そして再び口を開き、優しく私に言った。

「改めて約束します。これからも、ボクはずっと香奈さんと一緒にいます」

私はイツキの胸から顔を上げて精一杯の笑顔を彼に向けた。

「約束………よ」

そう言って、イツキの唇に私の唇をそっと重ねた。






〜了〜