「ねぇ、香奈さん」

イツキが穏やかな表情で私に呼びかけた。

「あのさぁ」

そう言ったまま、彼はふと真っ青な空を見上げた。

「どうしたの、イツキ?」

私の問いかけにも、黙ったまま、彼は空の青色を見上げ続けていた。

「イツキ?」

なんとなく不安になった私はもう一度、彼の名を呼んだ。
私の声に彼はゆっくりと視線をおろし、私の目を見つめた。
イツキの優しい瞳に私の顔が映っているのが見える。

「あのさぁ、香奈さん、ボクさぁ、今、すんげぇ幸せな気分なんだ」

彼は笑みを浮かべてそう言った。

「今日、ここに来て、ホント、よかったよ。なんか、嬉しくてしかたないんだ、ボク」

「そうね、天気もいいし、景色も綺麗だし。私もすごく楽しいよ」

イツキの言葉に、私は答えた。
私の言葉を聞いて、彼は軽く首を横に振った。

「いや、もちろん、この湖や空の青さも綺麗で感動したのも確かだけどさ、ボクが嬉しいのって、香奈さん、アナタとこういう時を共有してるからなんだ」

私はイツキの言葉に、心臓を鷲掴みされたような衝撃を受けた。
背筋に得体の知れない、快感にも似た何かが走り抜けた。

「香奈さん、どう表現したらいいのかな、よく自分にもわからないんだけど、アナタと共に過ごせること、それに、共に過ごせる時間が、ボクにとってかけがえのないものなんだ。改めて、今日、そう思ったんだ」

そう言った、彼の瞳は今までに見たことがないような優しい色を浮かべていた。
あの青い空の色を静かに映す、この湖のように。

「だからね、思ったんだ。ボク、これからも香奈さんと時を共有していきたい。これからも、ずっと」

彼の瞳に映る私は、目から涙を流していた。

「香奈さん、結婚してください。これからのアナタの生涯の時間を、ボクと共有させてください」