ボクは、ボクの腕の中で安心しきった顔で眠っている香奈さんを、飽くことなく見つめ続けた。
時折、短く切った彼女の髪をそっと撫でてみたりした。
ボクはこの幸福を感じる時間を1秒たりとも無駄にしたくなくて、たまに猛烈に襲い来る睡魔を恨みたい気分になった。
ふと時計を見上げた。
あと7分程で日付が変わるところだった。

香奈さん、もう少しで誕生日ですよ

ボクは心の中で呟いた。
腕の中で彼女は、規則正しくスゥスゥと寝息をたてていた。

香奈さん、アナタの願い通り明日になる瞬間を、一緒にすごすことできますね。
それってね、ボクにとっても、スッゲェ嬉しいことなんですよ。
ありがとう、香奈さん。

時計が12時を指した。
ボクは彼女にそっとキスをした。
彼女を起こさないようにと、気をつけて動いたつもりだったが、彼女は目を開けた。

「あっ、起こしちゃった?香奈さん、誕生日おめでとう」

「イツキ?あれっ?もう12時過ぎてたの?うん、ありがとう」

彼女はフニャっとした幸せそうな顔をした。

「ねぇ香奈さん、なにがいい?今日買いに行くプレゼント。やっぱり指輪?」

ボクの問いに

「そうね、う~ん、えぇっとね、今、こうしてイツキと一緒にいるでしょ?それでね、明日もね、イツキと一緒にいれたらね、私、なんにもいらない。もちろん、明日だけじゃなくてね、明後日は明後日の私が明後日のイツキと一緒でね、一年先は一年先の私と一年先のイツキが一緒、そういうふうにずっと、なれたらいいなって。なに言ってんだろ私。変だね。未来のことなんて、なんにもわからないのにね。イツキに嫌われちゃってるかもしれないし……」

香奈さんは涙を溜めながら微笑むように、そしてまた少し悲しげにも見える表情で答えた。
ボクは彼女の言ったことをすぐ理解できた。
ボクもそう思っていたから。

「大丈夫ですよ、香奈さん。約束します。明日も明後日も未来のボクは未来の香奈さんとずっと一緒にいます」

「本気にして……いい?」

「ボクは本気ですよ。だから、ボクこそ香奈さんに愛想尽かされない男になるよう努力しますよ」

ボクは微笑みながら彼女に伝えた。

「ありがと、約束よ」

香奈さんはそう言ってボクに優しくキスしてくれた。

彼女の望むもの、そして、ボクの望むもの。
未来の事なんてわからないという人はたくさんいるだろう。
でも、ボクは今も未来も、彼女への気持ちは変えたくない。
いや、変えない。
この気持ちだけは、決してわからない未来ではない。
だって、それは何事にも左右されることのない、ボクらの気持ちなんだから。