辺りが薄暗くなり、湖面から夕日の光が消えた頃、ボクらは帰路につくことにした。
さすがに帰りの道は混んでいて所々渋滞していた。

「イツキ、また渋滞してるよぉ。さすがにイライラしちゃうね」

香奈さんは少しイラついた感じで言った。

「しゃあないッスよ。それよか、眠たくなんないようにいっぱい話しましょ」

「うん、そうね。イツキ、朝早かったし、いっぱい運転したから疲れたでしょ?なんならどっかで運転代わろうか?」

「いや、無事にボクらが明日を迎えるためには、その申し入れは拒否いたします」

ボクは笑いながら言った。

「アンタねぇ、人が心配してやってんのに、それはないでしょ!」

彼女は鼻息も荒く怒った。

「ヘヘッ、なんかさ、ついついそんなことばっか言っちゃうんだよなぁ。ゴメンね、香奈さん。だけどね、ボクね、ホント真剣に、香奈さんのこと大好きなんですよ」

彼女は急に赤くなって

「バ、バカ、きゅ、急になに言うのよ」

と、言い、そして続けた。

「じゃ、じゃあ聞くけどさ、私のドコが好きなの?」

難しい質問だった。

「う~ん、そうだなぁ、香奈さんのね、大きなタレ目、それにショートの似合う小さな顔、あとね……」

と、ボクが考えながら言っていると、

「なによそれっ、外見ばっかりじゃない!」

再び彼女は鼻息荒く怒り出した。

「香奈さん、ゴメン。ホントはね、外見じゃないところにも、もっとたくさんあるんだけどさ、ただね、言葉にするのってなんか、ほら、難しくて」

そんなことを彼女に答えながら、ボクは思い返した。
彼女と出会ってから過ごしてきた時間のひとつひとつを。
強がりなクセにすぐ涙してしまう香奈さん。
ズケズケとなんでも話すクセに、肝心のところは不器用で上手く話せない香奈さん。
情に厚く、友達思いの香奈さん。
好きなのに素直になれず、つい、憎まれ口をたたく香奈さん。
クルクル変わる表情豊かな香奈さん。

ホントは他にももっといっぱいあるんだけど。
でもね、なにが好きかなんて、ボクには決められないんだ。

だってね、全部好きなんだからさ。