河口湖を早々にあとにしてボクらは富士五湖の5つ目の湖、山中湖に向かった。
この辺りに来ると富士山が非常に大きく見えた。
雄大な富士山を右手に見ながらボクらは山中湖の湖畔道路を進んだ。
旭ヶ丘という辺りで車を停め、香奈さんの手をとって湖の畔を歩いた。

「イツキ、ボート乗らない?」

「いいですけど、漕ぎ役はボクですよね?」

「私、漕いでみたいんだけど、無理かな?」

もうすでに午後になっていて富士山からかなりの風が吹き下りてきていた。

「風強いから流されると帰るのキツくなるから、スワンの足漕ぎボート乗りません?」

「えぇ~スワン?カッコ悪い~」

「いいじゃないッスか。スワン乗りましょうよ。ボクが一生懸命漕ぐからさ」

結局ボクの意見を押し通してスワンボートに乗ることにした。

スワンの前に並びボート屋の気さくな主人に写真を撮ってもらい、ボートに乗り込んだ。

「にいちゃん達さ、風出てるしあまり遠くまで行くと帰れなくなるからさ、気をつけろな」

と、言って送り出した主人に手を降ってボクらは湖上に出た。
確かに風は強く漕いでもいないのに岸からズイズイ離れていった。

「ありゃ、ホント風強いわね。あっ、イツキ向こうからデカいスワンくるよ」

香奈さんは前方を指差していった。

「遊覧船だ。コッチのスワンとはエラい違いですね。引き波受けないように離れますよ」

と、言って遊覧船の進路からどこうとしてボクは必死にペダルを漕いだ。
かなり強い逆風の中を前に進むのは、いささか骨が折れた。

「キツゥ~、香奈さんも漕ぐの手伝って」

ボクは頼んだが、彼女はニヤニヤしながら

「えぇ~、そんなこと女の子に頼むのぉ~、イツキ君情けなぁ~い」

とか言いながらボクにデジカメを向けていた。

「かぁ~、わかりましたよ。ボクが頑張りゃいいんでしょ。うぅ~、キツい、足パンパンだ、香奈さん後でマッサージお願いしますよ」

「マッサージ?やだぁ、イツキのエッチ」

彼女は変な声色を使って言ってひとりで爆笑していた。
ボクはブツブツ文句を言いながらも、この上ない心地よさ感じていた。
香奈さんと過ごすこの時間、いつまでも大切にしたい、ずっと続いてほしいと、改めて願わずにはいられなかった。