ボクはバイクで来ていたことをすっかり忘れ、いいペースでビールを飲み続けていた。

「武田君、バイクで来てなかったっけ?」

お酒で頬を赤く染めた里沙さんが不意に訊いてきた。

「あっ、そういやそうだった、忘れてた」

「いいじゃないの、里沙もイツキも、さぁ飲んで飲んで」

そう言って、香奈さんはボクと里沙さんに新しい缶ビールを手渡した。

「明日土曜日だしさ、学校ないからふたりとも泊まってきなよ」

香奈さんはすっかり上機嫌だった。

「あぁ~、そこのふたりぃ~付き合ってるからってぇ~お泊まりなんてぇ~、ふ、不潔ですぅ~」

突然、里沙さんの口調が変わった。
どこか目も据わってるように見える。
ボクはキョトンとして香奈さんに目をやった。

「ハハ、里沙、酔っちゃったぁ~。イツキ、里沙ね、ある一定量超すと突然こうなるのよ。カラミ酒だから気をつけてねぇ~」

香奈さんはケラケラ笑いながら言った。

「武田君、私ねぇ~武田君のこと好きだったのよぉ~。ビックリしたぁ~?あっ、香奈ぁ~安心して、子供の頃の話だよぉ~」

こんな里沙さん初めて見た。
つか、イキナリ壊れてないか?
香奈さんもヤレヤレといった感じで笑っていた。

「イツキ、聞いてやんなよ、里沙の話。里沙、話てよ、その子供の頃の話ってのをさ」

里沙さんは心得たと言わんばかりに続けた。

「まだねぇ、私が清里にいた頃ねぇ、武田君とよく遊び行ったんだぁ~。もちろん他の子達も一緒だったけどねぇ」

里沙さんの言葉に、ボクは子供の頃を思い出した。

「よくねぇ、落ち葉集めてフカフカクッション作って高いとこから飛び降りてみたり、ダンボールで基地を作ったりしてねぇ~。いっつも私ねぇ、武田君にくっついていって仲間に入れてもらってたんだぁ~」

そういやそうだったなぁ。
いつもハナタレの神崎がボクの後ろをくっついて歩いてたっけ。

「だから私、転校する時ねぇ~悲しくてねぇ、武田君のことぉ〜好きだったからぁ〜。悪いなぁと思いながらねぇ~、思い出に武田君の使ってた鉛筆を1本だけ勝手にもらっちゃったんだぁ~。ん~もう、時効だよねぇ~窃盗罪」


そんなことあったんだなぁ。
ボクは懐かしさになんか背中がカユくなった。