ボクはベルまでの道のりをずっと香奈さんの手を握りながら歩いた。
なんか嬉しくて、ついついその華奢な手を強く握ってしまった。
すると彼女もボクの手を力一杯握り返したりしてきた。

「イツキ、私に握力勝負挑んでるのかい?」

笑いながら香奈さんは言った。
愛しい人の手が自分の手の中に握られている。
たったそれだけのことに、ボクは自分でも驚くほど幸せを感じた。
そして同時に、それを永遠に失いたくないと思い怖くなり、また、切なくなり、無意識にまた彼女の手を強く握っていた。

「そういえばさ、香奈さん、誕生日いつ?夕べあんなに色んなこと話したのに、よく考えりゃ聞いてなかったっスね」

「ん?そういやぁ、そうだね。イツキ、聞いて驚け、来月の10日だ。さてさて、なにをプレゼントしてくれるのかなぁ?う~ん、楽しみ、楽しみぃ」

香奈さんはニヤリと笑ってボクを見た。

「う~ん、貧乏学生に豪華なものは期待しないでくださいよ。10日ですね、えぇと、確か日曜日ですね。じゃあ、9日の土曜日にドライブ行きません?で、日曜日には香奈さんの欲しいもの買いに買い物にでも行きましょう。ただし予算はあまりないですけど」

「ドライブって、アンタ車の免許持ってたの?で、車はどうすんのさ?」

「一応、免許は浪人時代にとってたんでもう初心者マークいらない身分ですよ。車はレンタカーでいいっしょ」

「車ならうちの乗ってもいいよ。確か保険も私のためにハタチからにしてもらってたし」

香奈さんはボクの誘いが嬉しかったのか弾むように話した。

「えっ?香奈さん免許持ってるの?夏休みも、お父さんばかり運転してたじゃないですか」

「とるだけはとったののよ。まぁ、完全にペーパーだけどね」

彼女は財布から免許を取り出し、どうだ、と言わんばかりにボクに見せた。

そんなやりとりをしてるうちにベルに着いた。
ボクは、握っていた手をまた離さなくてはならないことに寂しさを感じた。