普通クラスメートである上に隣人の顔を忘れるなんてことがあるのだろうか。



これがクラス替えをしたばかりの5月始めだとすればまだ納得のいく話だが、残念ながら今は10月だ。最後の席替えから1か月以上は経っている。



確かに席が隣だからと言ってまともに会話したこともなければ視線すら交わったことがないが、よもや顔まで知られていなかったとなるとなかなか寂しいものだ。



「柏木くん、おはよう」



せめて次の席替えが行われるまでに顔を覚えてもらおうと、それから何日か挨拶をしてみた。


柏木くんは初日こそは意表を衝かれたようにこちらを数秒見詰めていたが、2日目からはこちらを一瞥するなり視線を逸らし、「おはよう」と素っ気ない返事をするようになった。



「柏木くん、私のこと知ってる?」



挨拶をするようになってから1週間程経った頃に尋ねてみた。


抑揚のない双眸で私を見た柏木くんが、やや考える素振りを見せた後にぽつりと呟く。