Indifference






「いいなあ」



美しい景色って。


例え辛いことや悲しいことが我が身に降り掛かったとき、こんな自然な光景を目の当たりにすると、心の鉛が取り除かれたように気持ちが軽くなる。



壮大な自然を目の前にして、こんなにもちっぽけな自分自身を思い出して、そんなちっぽけな自分の悩み事などもはや塵にも値しないものであると実感するのだ。



いつの間にかセンチメンタルに浸っていた最中、私の右手越しに傘を握っていた柏木くんの左手にぐっと力が込められた。


心なしかその手の温度もいくらか上昇しており、我に返ってしまった私は再び慣れない緊張感に付き合わされることとなった。



「きれいだね」



どうにか気持ちを紛らわそうと、独り言のような語り掛けるような言葉を発して、然り気無く視線を横に向ける。



案の定柏木くんには私の声は届いていない。


私より頭いっこ分背の高い柏木くんを見上げている私に対して、柏木くんは更に上を向いているから当然視線が交わる筈もない。