遠慮のえの字もないその態度に、誘いを持ち掛けたこちらが驚かされた。
柏木くんは何の躊躇もなく同じ傘に入ってきたかと思えば、傘の柄を持っている私の右手を包み込むように、自身の左手を重ねてきた。
自分ではない体温に触れ、心臓が飛び上がる感覚というものを初めて味わった。
自慢ではないが私は今まで彼氏と言える存在はおろか、男友達と呼べる存在すらまともに居なかった。
否、今までと言うにはやや語弊がある。
今でも、現在進行形で近しい間柄の異性は居ない。
故にこの現状はなかなか緊張感を煽る。
そもそも私は内面はともかく、外面では決して積極性のある人間には属さない。
友人との会話でも大半は聞き役に徹しているような私が、どうして柏木くんに対して質問を畳み掛けるような行為に出たのか。
我ながら明確な理由は分からないけれど、要は気になったのだ。
人間って、自分以外の他者に対する関心によって、普段と少し異なった行為に走ることは特別可笑しいことではないだろう、と思う。

