初めてのケンカは陸上が原因だったけれど、今はこうしてそれを克服できている。
私も颯の手を握り返した。
「それでさ、来週末に大会があって。急だけど出るつもり」
「来週末?すぐなのに平気なの?」
まさかそんなに早く大会に出るとは思わなくて心配になる。
いくら昔は成績が良いからといって、今すぐは結果が付いてくるかわからない。
不安そうな私に気がついたのか額をグーでコツンと当てられた。
「心配すんな。今の自分のレベルを知りたいだけ」
「でも……」
「莉子が応援に来たら勝てそうな気がする」
「行っていいの?」
颯は応援とかされるの好きじゃなさそうだったから確認してしまった。
「当たり前だろ?」
「なら行く!」
「俺も頑張るから」
お互いに笑い合った。
こんな日がいつまでも続けばいいのに。
でもこの時の私は幸せすぎて気づかなかったんだ。
誰もが幸せであるはずがない。
その影で泣いている人もいるんだ。
私たちを見ている黒い影にその時はまだ……



