呼ばれて振り返ればまだ少し辛そうな表情で壁に手をついている。
その姿に、私を少しでも気にしていてくれたのかなと思うとさらに胸が苦しくなり涙が零れた。
でも、この状況で何も気にせずいられる自信が自分にはない。
颯に相応しいのは真穂さん。
颯がそばにいてほしいと思っている人は真穂さん。
そして……
邪魔なのはワタシ。
「おだいじに」
グッと唇を噛んで声を絞り出すと、私は勢い良く玄関のドアを開けた。
「莉子っ‼」
もう一度呼ばれたけど気づかないフリをした。
気持ちがないのに呼ばないで。
辛すぎるよ。
私には逃げ出すことしかできなかった。



