「お前、もしかして颯のこと……」


「そっ、そんなんじゃないよ。気にしないで」




圭太の言葉に慌てて濡れた頬を手で拭いて否定するけれど、一度溢れた涙は止まることなく流れだす。


圭太に心配かけちゃいけないのに。




この前も恥ずかしいトコ見せちゃって迷惑かけたから、次はもうこんな姿見せたくないって思っていたのに。


どうして上手くいかないの?






「はい」



目の前に差し出されたのは一枚のハンカチ。



「使えよ」



圭太の顔を見上げると優しく微笑んで私の手にのせた。




「……ありがとう」



圭太の優しさも今の私にはちょっぴり辛い。


ハンカチはみるみる染みを作っていく。





と、突然圭太が思い出したように声をあげた。




「あっ、俺用事あったんだ。莉子は先に帰ってて」


「えっ?ちょっ……」

「気をつけて帰れよなーッ!」



私の呼び止めにも応じず、手を挙げて走り去っていく。




なんなの一体?


そんな私の気持ちをよそに、圭太はビルを曲がったので見えなくなった。