その時。
ーードンッ
「キャッ!?す、すみません」
前から来る人にぶつかってしまった。
謝ろうと振り向いても、この人の多さでは相手も見つからず私の声もかき消された。
うぅ~、何でこんなに混んでいるのよ。
ただでさえ一日声出して頑張ってたのに、人の多さで余計に気分も悪くなりそう。
早く家に帰りたいなぁ。
私が人込みに嫌気がさしていると、
ーーギュッ
へっ?
「ひゃあっ!?」
左手が強く握られて引っ張られたかと思うと、圭太の横にぴったりと寄せられた。
この人込みにも押されないほどしっかりとした腕で、触られている部分が少し熱い。
「ごめんごめん。はぐれるといけないだろ?」
「う、うん。ありがと……」
「どういたしまして」
人混みを掻き分けながらも、返事のために一度だけニコッと笑って私に振り返ってくれた。



