「無理するな。俺がお前の分も走るから」
「えっ?で、でも……」
「いいから」
私の言葉を遮って自分の位置に戻ってしまった。
「莉子、そろそろ番だよ」
「あ、うん」
返事をして一度颯の方を向いたけど、気を取り直してコースに出る。
この前は怒らせちゃったのにどうして優しくしてくれるの?
聞きたい気持ちを飲み込んで体を慣らす。
気がつくと現在うちは2位で、1位とは50メートルくらい離れていた。
私はさっきの言葉を思い出す。
私の分も走るからって言ってくれてすごく嬉しかった。
確かに痛いけどその先で颯が待っててくれる。
そう思うだけで何だか勇気が湧いてきた。
バトンを受け取り、今の私の全ての力を振り絞って懸命に走る。
手渡されたバトンがズシリと重みを感じた。
不思議と足の痛みは感じない。
それどころかさっきよりも体が軽くなって走りやすい。



