キミの一番になりたい

 
走る先にはバトンを渡す相手、颯が待っている。



練習にもかかわらず颯の顔は真剣で。


それに思わずどきっとした。



私は颯にバトンを渡そうとした……けれど、離した手をいきなりギュッと掴まれた。




え?


驚いて颯を見ると何も言わず歩きだす。



「ちょ、ちょっと!」




私が何を言っても聞いてくれない。


それどころかズンズン歩いていってしまい、掴まれた腕が痛かった。


ついでについていくだけで精一杯の右足も。



周りの子はどうしたんだろうという目で見てくる。



でも、颯のただならぬ雰囲気に誰も声をかけることができないようだった。





「ちょっと抜ける。先生に言っといて」


「あ、あぁ」




颯は近くにいたメンバーにバトンを渡してまた歩きだす。


いつもの颯じゃなくて声をかけることも止まることもできない。




私はどうしたらいいかわからなくてどうすることもできないまま、ただ颯の後ろ姿を見つめていた……