「好きなやつ、俺じゃないみたいだな」

大輔は一人、そう言って立ち上がると、いつの間に書き終えたのか、日誌をぱたんと閉じて私に差し出し、ん、と言った。
受け取れということだろう。
私は日誌を受け取ると、大輔を見上げた。
大輔は机にかかったカバンを持ち上げ肩にかけると、一回私を見た。

「え…」

もう、帰っちゃうの?

「ファーストキス奪ってごめんな」

大輔は冗談っぽく笑うと、ヒラヒラと手を振りながら教室の出口に向かって歩いていく。
でもその笑顔は少し哀しげだった気がした。

「………言い逃げなんて、ずるいよ」

気づいたら声に出ていた。
大輔が驚いたように顔だけをこちらに向けた。

「自分だけ心のモヤモヤ吐き出して帰るなんてずるい」