俺を見つめていた白い獣は、次第に俺の方へと近づいてくる。それと比例して心臓が勢いよく血液を送り出す。
もう嫌だ。さっきギルさんが見張りをしていたときは何も異常なかったと言っていたのに、なんで俺の見張り番の時に限って異常事態が起こるんだ。
そんな事を考えている間にも白い獣は接近し、気がつけば焚き火を回り、俺のすぐ側まで迫っていた。
白い獣は犬の様な外見をしているが、足には鋭い爪が生え、口からは太い牙がはみ出していた。そしてなにより、体がでかい。
座っているから比べようがないが、俺の身長なんてとっくに越えていそうだ。
こんな巨大な化け物に襲われたら、いくら訓練を積んでいる騎士とはいえひとたまりもないだろう。
襲われる前に、切り捨てる。
考えた結果そんな結論に至った俺は、僅かに震える手で横に置いてある剣を掴む。
その瞬間、獣は俺の方へと走り出した。俺は獣を切り捨てようと剣を抜く。
だが切り捨てる前に、獣は俺の横を通り過ぎた。てっきり襲われると思ったのに、俺のことは眼中になかったかのように通り過ぎていった。
走っていった方へと目をやると、獣はテントの側に置いてあった俺たち三人の荷物をくわえていた。
「なんだ、荷物が目当てだったのか…」
安心して剣を納めた瞬間、獣は来た方向へとまた走り出した。
…荷物をくわえたまま。
いや、待て。駄目だろ。
あの荷物の中には食料や飲み水、薬や包帯等の簡単な治療道具含む今回の調査に必要なものが詰まっている。
「あー…くそ!」
俺は荷物を取り戻すべく、獣を追いかけ走り出した。


