寝顔を見た雪は、思わず声を上げそうになるも、片手で口を覆った。

雪は、相馬に連れ去られた。誘拐されたのだ。

憎い相手。嫌いな人。そう思ったのに、相馬が掴む手を離すことが出来なかった。

寝顔は安らかで穏やかで、悪いことをしている人には見えなかったからだ。

とはいえ、ここにずっといるわけにはいかなかった。

雪の家に、琉偉が、冬馬が、来たらどうする?

心配して、あちこち探し回るだろう。

そうなる前に、ここから抜け出さなくては。

「…雪…」
「…」

あれこれ考えてるうちに、相馬が起きてしまった。

「…目が覚めたんですね」
「…どうしてこんなことしたんですか?これがバレたら、相馬さんは誘拐犯ですよ?」

雪の言葉に、相馬は困ったように笑った。

「…確実に捕まりますね」
「…そうならないように、私を今すぐ開放して下さい。そしたら何の罪にもなりませんから」

説得を試みた雪だったが、相馬は首を降った。

「…それはできません」
「…何故ですか?」

「…雪さん、貴女が好きだから」
「…」

雪の手を握り締め、絞り出すような声で言った相馬。

雪はどう言い返したら良いものか分からず、黙りこむ。

「…こうでもしないと、手に入らない」
「…どうして、私なんですか?相馬さんなら、どんな女性だって手に入るのに」

実際、相馬は、どんな女でも手に入る。

だがしかし、雪だけは、心底惚れた女だけは、手に入らない。