…相馬の前にある、大きなベッドには、雪が眠っていた。

突然目の前に現れた相馬に驚いている雪に、相馬は無理やりハンカチを口に押し当て、薬を嗅がせ、眠らせた。

どんなに汚いと言われても、どんなに卑怯だと言われても、相馬は雪が欲しかった。

それほどまでに、相馬は雪を愛していた。

…琉偉に見せられた大量の資料が脳裏をよぎる。

今まで、相馬の仕事は、誰が見ても、綺麗な仕事じゃなかった。そんなことは分かっていた。

だが、飛天がホテル業界で一位を取り続けるためには、仕方がなかった。

黒い自分を隠して、愛して止まない女を手に入れる。

それが目の前にあるのに、叶うことはない。

…既成事実を作れば、雪は手にはいる。あの資料なんて、捻り潰せる。

やろうと思えばいくらでも手はある。

だが、相馬はそれはしなかった。

こんなに純粋で、綺麗な雪を傷つける事が出来るわけがなかった。

ベッドで静かに眠る雪の髪を優しく撫でる。

すると、雪が少し身じろぎした。

それに驚いた相馬は、その手を思わず離した。

…こうやって触れることすら緊張する。

天下の飛天旅館の社長たる大の男が、好きな女に一喜一憂する。

相馬は、なんだか自分に呆れた。

「…ここは」

しばらくして、雪が目を覚ました。

…手の温もりに気づいた雪は、自分の手に視線を落とした。

…大きな温かな手。

その手を辿ると、誰かが眠っていた。