「…白井さん、俺はどんな手を使っても君を守ると決めてる」

「…社、長?」

「…相馬が、何を仕掛けてきても、負けるつもりはない」

「…でも」

経営者としての琉偉を、雪は知ってる。どんな困難も乗り越えてきたあの黒澤のトップだ。

琉偉なら、相馬を負かせるかもしれない。

だが、もし、琉偉が負けたら?

たった一人の、自分のせいで、琉偉に、黒澤に、迷惑をかけることになったら?


「…社長、これ以上、ご迷惑をかけるのは心苦しいんです」

大好きな人を、苦しめるのだけはいや。

雪はそう思うと、胸が一杯になって涙が流れた。

それに気づいた琉偉は指でそっと涙を拭った。

そして、優しく微笑んだ。

「…大丈夫、俺を信じてほしい」

「…社長」

琉偉は、この時も、雪に好きだとは言わなかった。

何もかも、上手くいったその時に、自分の気持ちを伝えようと決めていた。

雪もまた、自分の気持ちは口にしなかった。

言えなかった。

気持ちを言葉にすることが、何よりも怖かった。

…それから一週間後。

相馬から、再び雪に連絡があり、某ホテルで会うことになった。


…。

約束の時間になっても、雪は現れない。

相馬は、雪の携帯を鳴らしてみたが、応答はなかった。

…約束の時間を10分過ぎた頃、ようやく相馬の元に現れた。