何の答えも出ないまま、刻一刻と時間は過ぎていく。さつきの助言も受け入れられず、毎日を過ごしていた。

答えを出す前日。今日は、9時を回っても仕事が終わらず、課長と二人、仕事に励んでいた。

琉偉もまた、社長室で仕事をしている。…午後11時。ようやく仕事が終わった。

社長室のドアをノックし、雪が中に入った。

「…黒澤社長、そちらの方は終わりましたか?」
「・・・あぁ、何とかキリのいいところまで進んだ」

「それでは、私が手伝う事はないですよね?」
「あぁ、ありがとう。もういいよ。…もうこんな時間か。課長は?」

「それが、有斗君が急な熱を出したとかで、先程急いで帰りましたが」
「そうか。・・・こんな時間だし、送る」

琉偉の提案に、雪は慌てて首を振った。

「結構です。まだギリギリ終電もありますから」
「ダメだ。こんな時間だ、人通りも少ない。物騒だから、送る」

そう言うと、立ち上がり、カバンを持つと、雪の傍に来て、雪の手を取った。…決して逃がさないとでも言うかのように。

「…黒澤社長」
「…今からは、プライベート」

「・・・」
「社長じゃなくて?」

「…琉偉、さん」
「…よろしい」

雪の言葉に納得した琉偉は、雪の手を引いて、秘書室へ。鞄を持つと、駐車場に向かった。

…車の中、運転する、琉偉の横顔をチラ見する雪。

…やっぱり素敵な人だ。そう思っただけで、胸が一杯になる。

・・・でも、この気持ちに、蓋をせねばならない。…今なら、この気持ちに、蓋をできるだろうと、自分に言い聞かせた。

「…白井さん・・・俺に何か言いたい事はない?」