…月曜日、仕事を休んだ雪は、とある温泉街にある老舗旅館に来ていた。

「…お帰りなさい、雪お嬢さん」
「ただいま、番頭さん」

雪は、北海道のとある温泉街にある老舗旅館を経営する両親の元に帰って来ていたのだ。

昨晩、突然父から電話があり、どうしても帰ってきて欲しいと連絡が来た。仕事があると言っても、とにかく帰ってきて欲しいと。

これだけ強く言われたのは初めてだった。雪は、月曜日の朝一の北海道行きの飛行機に乗って帰って来たのだが。

…旅館の一番奥、雪は勢いよく襖を開けた。

「お母さん!どうしたの?」
「…全くこの子は、落ち着きのない」

そう言って、呑気にお茶を飲んでいるのは、この旅館の女将である雪の母。

「…雪おかえり」
「お父さん、何があったの?」

慌てる雪に、父は困ったように笑って、座るよう促した。

「…雪、この旅館の経営が、大分悪化してるんだ」
「…ぇ」

「お母さんとも色々話し合ったんだが、この旅館を閉じようと思ってるんだよ」
「…なんで?今も、こんなにお客様が来てくれてるのに?」

「…私も、続けられるものなら続けていきたい。でもな、年々お客様は減ってきている。だから…」

力なく笑う父の顔はとても疲れていて、雪は困惑する。

「…お父さん、雪に、あの事を聞くために、帰って来てもらったのよ?話さなきゃ」
「お母さん、その話はよさないか?雪には雪の人生がある…」

二人の顔を交互に見た雪は、これが本当の本題だと悟る。

「…話して、私に何かできる事あるの?」