部屋を出て、鍵をかけると、一回に下りた雪は、車に寄りかかり待っている琉偉に声をかけた。

「お待たせしました」
「・・・」

「黒澤社長?」

雪を見たまま身動き一つしない琉偉。雪は不思議そうな顔で琉偉の名を呼んでみた。

「…ゴメン、いつもの白井さんと全然感じが違ったから」
「・・・え?」

「その服、よく似合ってるよ」
「・・・ぁ、ありがとうございます」

琉偉に会う時は、必ず会社だ。だから、スーツ姿しか見た事がないわけで。普段の雪は、おしとやかなお嬢様のような服装が多い。

その服を褒められると思っていなかった雪は、頬を染め、はにかんで見せた。

助手席のドアを開けてくれた琉偉。雪は礼を言って車に乗り込んだ。

間もなくして走り出した車は、沢山の人が参拝する神社にやってきた。流石は元旦。長蛇の列に並んで、なかなか前に進まない。雪はうっかり手袋を忘れてしまい、息を吹きかけ、手を温めた。

「・・・ん」
「・・・え?」

そんな雪の目の前に、琉偉が手を差し出した。その意味が分からず首を傾げていると。

「繋いでたら、温まるだろ?」
「・・・でも」

なんだか気恥ずかしくて躊躇った雪。でも、琉偉はお構いなしに、雪の手をキュッと握りしめると、何食わぬ顔で前を見た。

…琉偉の手は、本当に温かい。

「…社長の手、温かいですね」

そう言って雪は微笑んだ。