その時だ。突然秘書室のドアが開いて誰かが入ってきた。雪は慌ててデスクに身を隠した。

一体誰が入ってきたのだろうか?秘書課には、四人の秘書が常駐している。社長の秘書が二名、常務の秘書が一名、専務の秘書が一名。

今夜はクリスマス。社の風習で、クリスマスの夜は、皆が定時で帰るよう通達が出される。珍しい風習だが、大きな記念日は大事にすると言う前社長の粋な計らい。

だから、今夜はもう誰もいないはずなのに。誰か忘れ物でもしたのだろうか。

そんな事を思うものの、涙が後から後から流れ落ちていく。それと同時に鼻水まで…思わず、ズッと鼻をすすってしまい、雪は両手で顔を覆った。

「…誰だ?」

…男の声。…秘書課の課長は男性だが、この声は課長のものではない。だが、この声はよく知っている。

挨拶くらいしなければならない相手だが、こんな涙でグチャグチャの顔を晒すわけにもいかず、雪はずっと息をひそめた。

「…見つけた」
「…社、長」

雪の歪んだ視界に、黒澤社長の顔が映ったかと思えば、そのまま視界が揺れ、暖かな腕に包まれた。