不安を抱えたまま、琉偉の実家にやって来た。

雪は、丁寧な挨拶をする。

最初は険しい顔つきだった両親だったが、雪の気立ての良さを気に入り、結婚は快諾してくれた。

…不安な気持ちは一気に無くなった。

ん?拍子抜けとは、この事だ。

食事を共にし、談笑して、その日は帰ることになった。

琉偉に、先に車に行ってるよう言われた雪は、言われたとおりに、車に向かった。

すると、琉偉の車に、スーツ姿の雪と変わらない位の男が立っている。

雪は、琉偉の知り合いかと、声をかけてみることにした。

「…あの、どちら様ですか?琉偉さんの、お知り合いですか?」

すると、男は雪を見て、ニコッと笑う。

「琉偉の友人です。零士(れいじ)と言います」
「初めまして…婚約者の白井雪と言います」

零士の差し出された手に、雪は迷わず手を差し出した。

その手は握手を求めたものではなかった。

抵抗する雪を、琉偉を驚かせたいからと、強引に引っ張る。

「…おい!零士!何やってる?」

遅れて出てきた琉偉が雪を助けようと、駆け寄ってきた。

零士はクスクスと笑うと、雪の耳元で呟いた。

「聡明な貴女には、琉偉は、重荷にしかならないよ」

そう言い捨てると、零士は手を降り、その場から姿を消した。