…想いが通じあった二人だったが、雪はやっぱり、旅館を中途半端に出来ないと、切りが良いところまでやりたいと、一度北海道に戻った。

「…」

雪は今の状況に、嬉しいような、不安なような複雑な心境だった。

だって。

「…どうした、白井さん?」

旅館の前、雪に声をかけたのは。

「…黒澤社長、仕事は本当に大丈夫なんですか?」

もう片時も離れたくない琉偉は、課長の反対を押しきり、雪についてきてしまったのだ。

とはいえ、琉偉は黒澤の社長だ。

会社を長くは空けられない。

課長から許された自由日数は、たったの3日。

「…3日もらったから、それまでに、こっちでの仕事を終わらせる。雪もそのつもりで」

「…3日で終わらないと思いますけど」
「…出来るよ。俺を誰だと思ってる?3日あれば、経営方針も、マニュアルも全て作れる。そうすれば白井さんは向こうに帰れるだろ?」

雪は、何とも言えない顔をした。

「…言ったはずだ。白井さんともう、片時も離れたくないって。…それとも、白井さんは、俺と離れてても平気?」

…全くもって平気ではない。

想いが通じあった今、琉偉と離れてるなんて無理だ。

遠距離なんてあり得ない。

雪は、無理だと首を降って見せると、琉偉はフッと、笑みを浮かべて、雪の頭を優しく撫でた。